【〆麺】川崎は今日も混沌の渦の中。駅前アーケードで街中華の真髄を味わう。

この記事は4分で読めます。

夕日が街に色濃く影を落とす。駅前の人通りが増えていく。混沌とした川崎の街に、今日も夜が忍び寄る。

駅の向こう側の再開発が進み、洒落たショッピングモールができて久しい。それ以前の川崎のオシャレスポットと言えば、チッタ周辺であった。雑居ビルの間に突然現れる、南欧風の広場。カフェに映画館にライブハウス。その裏手にはすぐ風俗街が広がっているというのに、よくこんなところに作ったな、と当時は感心したものだった。今ではすっかり馴染んでしまったが。

川崎駅周辺町の様子新しさと懐かしさが入り混じる川崎駅周辺。(筆者撮影)

京浜工業地帯の中核を成す川崎市は、言わずと知れた労働者の街。古くは宿場町として栄えたというが、街の各地にひっそりと残る石碑くらいでしか往時を偲ぶことはできない。もはやそのイメージは紛れもなく「工業の地」なのである。

とはいえ、川崎は広い。住宅地として開発が進んでいるのんびりとした川崎市郊外と、この中心部とでは纏う空気がまったく違うのだから面白い。麻生区あたりは昔から小洒落たニュータウンとして開発されてきたし、昨今、急にイメチェンを図り始めた武蔵小杉も川崎市。まあ、以前はとても川崎らしい下町然とした住宅街だったが。

しかし、この川崎駅周辺はいつ来ても垢抜けない。これだけ巨大なターミナル駅だというのに、少しも気取った素振りを見せない。どれだけ新しいビルが建とうとも、どれだけ小洒落た店ができようとも、この街を覆う“うらぶれた”空気は薄まることがないのだ。

駅前の大通りを左に入ると、ちょっとしたアーケード商店街がある。ラーメン屋や大衆居酒屋がひしめくその通りは、どう考えても主婦の用を満たしてくれるとは思えない。が、ここにある喫茶店に入ると、なぜか高齢の夫婦やマダムたちが寄り集まっているので不思議だ。みな一様にタバコを手にしている。そうか。駅近くには気軽に吸える店がないのか。これも再開発の弊害である。我々喫煙者は、どんどん市民権を奪われ、今や限られたほんの僅かな場所しか与えられていない。その数少ない天国が、このアーケードには存在しているのか。

都会の真ん中のようでいて、田舎の地方都市のようでもある。そんな混沌に、どこか懐かしい気持ちを抱いてしまうのは、自分がまだ混沌としていた時代の日本で生まれ育ったからかもしれない。

本日の〆麺

うっすらと膜を張るような、ぼんやりとした郷愁を感じながら、今日の夕飯はあの中華屋にしよう、と決めた。昔懐かしいがまだまだ現役。川崎の町中華の象徴とも言える『天龍』に。

「天下一 まずい」を逆さに印字した暖簾が目印。タイミングを間違えるといつも行列だが、今日は運良くすぐに通された。

カウンターのみの店内。厨房は奥にあり、カウンターにぐるりと囲まれたスペースと繋がっている。まるでステージの花道のようだ。パートのおばちゃんたちは、狭い店内を歩くことなく、そこから品物を提供できるアナログだけれどよく考えられたシステム。

中ではサラリーマンから若い夫婦、地元のおっちゃんおばちゃん、学生……と、バラエティ豊かな面々が黙々と中華を頬張っている。まだ明るい時間だというのに、すでにかなり引っ掛けてきたと見られる男性陣もいた。パートのおばちゃんに絡むおやじもいる。とにかく、騒がしい。

お世辞にもキレイとは言えないし、感動的に美味いわけでもない。しかし、じんわりと胃に染みる優しい味わいのチャーハン、さっぱりとした口当たりの餃子、よく冷えたビールを交互にかきこむと、なんとも言えない満ち足りた気持ちにさせられる。

騒がしいのは嫌いだが、この店では少し騒がしいくらいがちょうどいい。1人を気楽にしてくれる喧騒。気がつくとビールは2本目へと突入していた。
腹もそこそこ満たされたところで、今日の〆に入ることにした。そうだな……よし。酸辣湯麺にしよう。秋の新メニューだそうだ。

ラーメン酸辣湯麺(850円)

予想以上に辛く、酸っぱく、熱いスープ。唐辛子の辛さではなく、胡椒の辛味。胃袋に蓋をするかのごとく重くのしかかる。麺の量も多い。これでもか、というほど主張の強い1杯だ。吹き出る汗、しびれる舌、重い腹。ボディブローを連続で浴びせられている気分を味わいながら、1杯を飲み干した。ふぅ、食った食った。

ごちそうさまでした。

川崎周辺で飲み歩いた後の〆はぜひ立ち寄ってみてください。

【お店情報】
店  名:天龍 銀座街店
営業時間:11時~2時
住  所:神奈川県川崎市川崎区砂子1丁目1−1

  • 日間
  • 週間
  • 月間