【〆麺】ベンチャーが集うビジネスの街は、山手線屈指の歓楽街。滋味深き中華そばの郷愁に触れる。

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昼下がりの五反田は、サラリーマンの街だ。これだけオフィスがあるのだから当然である。

ベンチャー企業が多く集まり、どことなくハイソな雰囲気も漂う街。しかし、駅からそう遠くないエリアにラブホテルや風俗街が広がっているという、人間臭さを備えた街でもある。

オフィスビルが立ち並ぶ五反田駅前。(五反田駅のホームより撮影)

さて、現代の五反田だが。駅を降りると、高層とまではいかないながらも、高いビルがいくつもそびえ立ち、壮観だ。ちょうど駅の辺りで桜田通りと第二京浜が合流することもあり、道幅が広く交通量も多い。住宅街や個人商店が連なるお隣の目黒や恵比寿とは違い、グッと都心の香りが強くなる。

五反田の歴史はさほど古くはない。江戸の頃は「五反田」の地名があらわすとおり、辺り一面、田んぼに覆われていたようだ。その後、東京市街地の拡大とともに開拓され、大正末期から昭和初期にかけて急速に花街として発展。品川や渋谷、目黒に近いという地の利に恵まれたことも、ひとつの要因だろう。戦後はラブホテル街としても名を馳せ、名実ともに山手線屈指の歓楽街へと成長した。

東口方面での取材を終え、歓楽街の中を歩くと、まだまだ早い時間だというのに店前に呼び込みの兄ちゃんが立っていた。無料案内所もきらめく電飾で客にアピールを続けている。こういう歓楽街には、明るいうちからうまい酒を飲ませる店が必ずある。この歳になってチェーン居酒屋で1人飲み、というのは気が引けるが、五反田にはちょうどいい赤提灯がいくつもあるので、居心地がいい。

今日はもう週末。時間だけは気楽なフリーランスという立場に感謝しながら、昼飲み営業をしている店に入った。

中はランチ客で賑わっているが、うまいことカウンターの1席を見つけて潜り込む。助かった。腹も減っていたので、鶏南蛮定食とビールを頼み、改めて周囲を見回す。最近は若いOLだけの集団でも、平気でこんな歓楽街の安居酒屋に来る。居酒屋の飯は安くてうまい、と気づいてしまったのは誰なんだろうか。男だけの文化だったはずなのに、こんなところにもジェンダーレスの流れは広がっているのか。

仕事がどうだとか上司がどうとか、最近のあのドラマが面白いとか、オススメの映画はこれだとか。よくもまあ話が尽きないものである。しかし、オフィス街のランチは短い。彼女たちもあっという間に食事を終えて茶を飲み、仕事に戻っていった。貴重な昼休憩、ご苦労。

入れ替わり立ち代わり、そんなランチ客たちを何組か見送ったところで、店員から、いったん昼営業を閉めると申し出があった。昼のビールは心地よいが、ここまでか。

店を追い出されるように外に出て、なんとはなしにぶらりと徘徊する。五反田の街は、どこに行っても、どこまで行っても、似たような景色。西口側に移動し、目黒川を超え、TOCのある方面へと歩いていくと、一気に人通りが途絶えた。と同時に、昔ながらの住宅街が見えてくる。そうだ。近くにうまいラーメンを食わせてくれる店があったはず。時間は早いが、今日の昼酒はそこで〆よう。

住宅街の狭い路地を抜けるとあらわれる『浜屋』は、自家製麺に無化調をうたった手作りの1杯が味わえる店だ。各種中華そばを扱っているが、どれも深みのあるスープを楽しめる。

店内は意外と広く、入り口脇には待ち客用の椅子も据えられている。食券を買ってカウンターに座ると、女性が注文を取りに来た。

今日は味噌の気分だったので、濃厚味噌中華そばに自家製のエビ辛しをつけた。これが、なかなかに辛い。そのまま舐めると、エッジの効いたエビの味がした。

スープは非常に洗練された味噌。マイルドでクリーミーだが、すっきりと飲める上品系。ガツンと来る味噌感はない。味に深みを与えてくれる程度の味噌。最初のひと口は少し物足りなさすらあった。しかし、これがジワジワと効いてくるタイプ。気がつけばレンゲですすってしまう。うまい。

丼に沈む自家製麺は、少し太めの縮れ麺。もっちりとした歯ざわりが楽しめる。濃厚なスープによく絡み、相性はいい。

たっぷりのメンマ、大きめのチャーシュー……すべてにおいて、食べごたえ抜群の1杯だった。

ごちそうさまでした。

【DATA】
濃厚エビ辛し味噌中華そば
850円

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