生粋のハマっ子が「もっとも横浜らしい下町」と評するエリア。それが、関内・伊勢佐木町。おしゃれでハイソな元町と対をなすように、庶民に寄り添い、横浜の発展を見守ってきた街だ。
最後の取材を終え、もうあとは自宅に帰るだけになったある日。久しぶりに伊勢佐木モールをぶらぶらと歩く。昼はマダムたちが行き交う商店街、夜は横浜有数の歓楽街。夕方を少し過ぎた頃のこの街は、一番穏やかな顔を見せてくれるのかもしれない。
世の商店街の多くが、廃れたり、または新しいものに侵食されていったりと、昔の面影を感じさせない中で、この街は古いものを残しながら新しいものを受け入れて発展を続けている。
たとえば、海外からの観光客向けのドラッグストアやモバイル専門店が、日本語でない文字を店先にぶら下げている横で、古くからの中華料理店や喫茶店、漢方薬局が年季の入った看板を掲げている。その並びには、庶民の憧れ「不二家レストラン」。1号店とも噂されるこの店は、伊勢佐木町のシンボル的存在なのだそう。
関内駅側の入り口近くにあるのは、カトレヤプラザ。地方にテンプレを出店し続けている某大手とは違い、地元色豊かなショップやクリニックが入居するショッピングモールだ。以前は「横浜松坂屋」として営業しており、かの国民的フォークデュオがストリートライブをしていたことでも有名。
奥のほうまで歩くと、若者向けの店はどんどん消えていく。同時に、より地域色が濃くなっていき、地元民が集う美容室や手頃なスーパー、高齢者向けの雀荘などが現れる。
立派な会館かと思えば場外馬券場だったり、小さな個人店の隣にドンキホーテがあったり。ファミリーも学生も、派手な格好の若者も。品の良いマダムも、ギャンブル好きの老人も。なんでも受け入れる懐の深さが人を呼び、昭和の香りを残しながらも令和の時代をしなやかに生き抜いている。改めて、その逞しさに感心した。
ひとしきり歩き回って小腹が空いても、この街なら大丈夫。昼飲み営業をしている店が多いのも、歓楽街のありがたいところだ。その中の1件を選び、簡単なつまみとビールでホッと一息。立ちっぱなし、喋りっぱなしで疲れた身体に、冷たい炭酸がシュワシュワと染み込んでいく。暑かろうと、寒かろうと、この一瞬に勝るものはない。これがあるから、がんばれる。
ほんの1時間ほど、小説を片手に1杯のビールと2杯のお湯割りを楽しんだだけだが、あっという間に日は落ち、あたりはすっかり暗くなっていた。
さて、今日を〆るとしよう。
本日の〆麺
伊勢佐木モールにはたくさんのラーメン店がある。さすが横浜。ここに来たらやっぱり家系か?とも思ったが、上野に本店を置く『戸みら伊』へ。
比較的最近できたと見える店内は、壁沿いに並ぶカウンター席に加え、フロアの半分ほどをテーブル席が占めている。テーブルには小洒落た格好をした若者のグループが2組、カウンターでは営業帰りと思しきサラリーマンが1人でラーメンをすすっていた。
それにしても、最近のラーメン屋は清潔感がある。
何度掃除しても拭えない油のヌメリや、汚れがこびりついた換気ダクト……ラーメン屋の性とも言うべきそれらを排除した姿は、近年の草食系男子ブームともリンクするのか。
注文を取りにきたアルバイトの女の子が、とてもかわいらしかった。「サービスです」と言われてテーブルの上を見てみると、ゆで卵が無料のようだ。これはうれしい。コレステロールが気になるお年頃。麺を待つ間、1個だけいただくことにした。
【ラーメンDATA】
ラーメン 戸みら伊 横浜伊勢佐木町店 [食べログ]
営業時間
[月~金] 11:00~翌6:00
[日・祝] 11:00~24:00
戸みら伊らぁめん+味玉
800+100円
今回注文したのは、定番の「戸みら伊らぁめん」。豚骨をベースに鶏や魚介のエキスもふんだんに使用した濃厚スープがメインで、厚みのあるチャーシューや、醤油ベースで味付けされた太く食べごたえのあるメンマなど、具材にもパンチが効いている。
この店の3本柱は、この定番ラーメンと「豚骨魚介らぁめん」「つけ麺」。それに加えて、香味らぁめんや四川担々麺、炙りチャーシュー麺、季節のメニューなど、幅広いラインナップも魅力的。
どれもしっかり出汁の深みを感じられるのに、後味が以外とあっさりしているので、翌日の胃もたれも気にならない。中年にはうれしい1杯だ。
ごちそうさまでした。
★横浜エリアのガールズバーはこちら
ライターT氏
フリーライター歴12年。酒と煙草とハードボイルドをこよなく愛する40代。基本的に頼まれた仕事は断らないスタンスで、フットワークの軽さを武器に、グルメからギャンブル、芸能関係までジャンルレスで活躍している。取材先で食べるご当地グルメと酒、〆のラーメンが何よりも楽しみ。最近、少しだけ血糖値が気になり始めた。憧れの人は「孤独のグルメ」の井之頭五郎。