船橋は、とても広い。今日の取材は京成線沿いを少し歩いた先にあった。しかし、まわりは住宅街どころか、畑すら点在するような場所。心惹かれる飲食店はすべて、ランチタイム営業を終え、夜の営業までしばらく待たなければいけなかった。
仕方がないので、船橋駅へと戻る。千葉の中でも指折りの大都市が、ここ。なんなら中心地であるはずの千葉駅周辺よりも、栄えているように見える。駅前には大規模百貨店が立ち並び、東西南北に大きな道が伸びている。広い広い千葉の中で、ここは比較的東京寄りだ。都内に通うサラリーマンたちのベッドタウンとしても機能している。しかし、広く幅を取った道の作りだとか、どこの建物も大きな駐車場を備えていたりとか、やはり車がないと不便であることも間違いない。
あまり騒がしいところで飯を食う気にはなれなかったので、京成の高架沿いにある裏ぶれた路地を今日のメインに設定した。
船橋はギャンブル好きにも愛される街である。市は異なると言え、こんなに近くに競馬場を2つも擁するエリアはほかにない。数年前に廃止されてしまったが、オートレース場もあった。そのせいか、駅前には巨大なパチンコ店も多く並んでいるし、大都市の駅前だというのに、こんなにも安食堂が立ち並んでいる。居酒屋の数も多い。
手頃な1軒を見つけ、中に入った。冷えたホッピーが空腹に染み渡る。けだるげな外国人店員を呼んで安いつまみを数品注文し、ぐるりと周囲を見渡した。
夜営業が始まっているとは言え、まだまだ明るい時間帯。こんな時間から飲んでいるのは、周辺の学生と高齢者ばかり。いかにも競馬場帰りの中年おやじも数人いた。人の話す声で騒がしい。確かに騒がしいのだが、なんとなくゆったりとした時間が流れていて、不快さは感じなかった。
頼んだつまみは決しておいしくはなかったし、酒も量販品ばかりで大して目新しさもない。安い酒はよく回る。ある程度空腹を満たしたところで、夜風に当たることにした。
線路の高架を抜けた先には、だだっ広い道がまっすぐ伸びている。しかし、すぐ裏に路地が広がっているところを見ると、ここも再開発で一気に均したくちだろう。路面だというのに三角州のように独立してる店の裏手に回ってみると、小さな稲荷やスナック、パブなどが数軒並んでいた。どうやらここは、駅への近道として利用する人も多いらしく、人通りは絶えない。こんなところでも、営業している理由はあるのだ。
大きな建物は依然として並んでいるが、土地を贅沢に使った間の取り方は、地方都市のそれ。駅前から5分ほどしか歩いていないのに、こんなにも変わるものなのか。ラーメン屋の数の多さに目移りしていると、古めかしい暖簾を掲げた店を見つけた。
よし。今日はここで〆よう。
本日の〆麺
『赤坂味一』、初めて入る店だ。どうやら本店は亀戸のほうにあるらしい。暖簾をくぐると、煮干しの匂いが鼻孔をくすぐる。床もテーブルも、染み込んだ油がぬるぬると光っている。大相撲のポスターや力士のサインがたくさん飾ってあるが、関係者なのだろうか。
店内はかなり広い。厨房をぐるりと囲むように設置されたカウンターには、土方のおっちゃんらしき人々が並んで座っている。女性の姿は、ほぼ、ないw
【ラーメンDATA】
赤坂味一(あかさかあじいち)[食べログ]
営業時間
11:00~16:00
日曜定休(※祝日は営業)
中華そば
600円
メニューはとことんシンプルな中華そば。ワンタン麺もチャーシュー麺も、基本の麺に具材を増したもののようだ。すでに1杯引っ掛けてきた身に、重い具材は少しばかりきつい。今回は中華そばを注文し、目の前に置かれた水を飲んだ。ウォーターサーバーとは違う、美味しくはない水。これは期待が持てる。
届いた1杯は、本当に愛想がないほどシンプルなものだった。澄んだスープは濃い煮干しの味が意外と上品。少し塩気が強いのもいい。麺は黄色く縮れた中太麺。ボリュームもある。何より、これで600円。ギャンブラーや労働者のお財布にも心にも優しい。目一杯かっこんで、胃から立ち上ってくる安酒のアルコール臭を中和した。
ごちそうさまでした。
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ライターT氏
フリーライター歴12年。酒と煙草とハードボイルドをこよなく愛する40代。基本的に頼まれた仕事は断らないスタンスで、フットワークの軽さを武器に、グルメからギャンブル、芸能関係までジャンルレスで活躍している。取材先で食べるご当地グルメと酒、〆のラーメンが何よりも楽しみ。最近、少しだけ血糖値が気になり始めた。憧れの人は「孤独のグルメ」の井之頭五郎。