吉祥寺の人波と、意味のない会話。鯛出汁の塩気と豚骨が、心のモヤモヤを洗い流してくれた日。

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様変わりする街の様子に驚きを隠せず

吉祥寺にこんなに人が増えたのは、いつからだろうか。自分が学生時代を過ごした頃の吉祥寺は、こんなに騒がしい街ではなかった。もっと田舎町然としていて、手づくりの温かみがあって、サンロードもちょっと大きな街の商店街だった。

それがいつの間にか、小洒落た店が増え、休日には人が溢れ返り、住みたい街No.1の常連となっていた。そんな吉祥寺に嫌気が差して、ここ数年は乗り換え以外で近寄ることもなかったが、久しぶりに学生時代の友人に呼び出され、駅舎の外へ出ることになった。

吉祥寺の人波と、意味のない会話。鯛出汁の塩気と豚骨が、心のモヤモヤを洗い流してくれた日。人の波にさらわれる吉祥寺駅前。

以前は『ロンロン』という名前だった駅ビルも、今では意識の高そうな店が集まる「アトレ」になっている。どの店も「自然」だとか「ハンドメイド」だとか「オーガニック」だとかを謳っているけれど、少しも違いがわからない。個性を出そうとして個性が死んだ店たち。たぶん、次に来たときに入れ替わっていたとしても、まったく気づくことはないだろう。

今回は公園口で待ち合わせ、駅前の適当な飲み屋に入ることになった。友人はエスカレーター下ですでに待っていて、なんなら近くのおでん専門店の席まで取っておいてくれたらしい。人混みを歩くのが何よりも嫌いな自分にとっては、非常にありがたいことだ。

吉祥寺の夜の街並み

吉祥寺の夜の街並み

 

本当に駅の目の前にあるその店は、古びた雑居ビルの中とは思えないほど広さもあり、高級そうな見た目をしていた。テーブルに座って、好みの具材を1品ずつオーダーする。日本酒や焼酎の品揃えもよく、なるほど、店内は年配の男性客で賑わっている。

数年ぶりに会う友人は、とにかく同級生たちの近況に明るい。誰が離婚しただの、誰が出世した、会社を興しただの、誰が病気で伏せっているだの……とりとめもなく話題が続いていく。話の半分以上を聞き流しながら、ただただ目の前の酒を飲んだ。付き合いというのは大変である。

2時間ほど飲んで2軒めに誘われたが、正直、もう疲れ切っていた。帰る路線が違うのをよいことに、なるべく当たり障りのない言葉で友人を駅まで見送り、そのまま踵を返す。麺でも食わねばやっていられない。

吉祥寺と言えば、『ぶぶか』をはじめとしたこってりまぜそばが有名であるが、今の胃にはとても重たいように感じられた。かと言って、おでんはさっさと消化されてしまうので帰るまで腹がもつのかいささか不安がある。よし、あそこにしよう。

本日の〆麺

JRの高架をくぐり、オデヲン座を通り過ぎ、先にあらわれた通りを左に進む。吉祥寺らしい個人経営の飲食店が多く立ち並ぶ。それらを横目に5分ほど歩くと、2,3人が並ぶこじんまりとした店を見つけた。「真風(まじ)」。吉祥寺の有名店だ。

本日の目的「真風(まじ)」へ向かう

本日の目的「真風(まじ)」へ向かう

 

まずは食券を、と引き戸を開けると、豚骨特有の臭いが鼻をついた。最近は豚骨も洗練されてしまい、仕込み中でもこんな臭いをさせる店は少ない。パンチの効いた醤油「クロ」に白湯の「シロ」、濃いめの「味噌らーめん」と鯛出汁をあわせた「鯛塩らーめん」が基本のラインナップだ。もちろん、すべて豚骨スープがベースとなっている。

今回はさらりと「鯛塩」をチョイス。お世辞にもオペレーションが機敏とは言えないが、カウンターだけの店内。長居をする客もおらず、あっという間に店に通された。

厨房をぐるりと囲むカウンターは、10席ほどだろうか。とにかく、豚骨の臭いが強い。提供されたラーメンも、鯛の香りよりまず、湯気とともに立ち上る豚骨の香りが印象に残った。

具材は細めのメンマとネギ、薄めのチャーシューに青菜、海苔。デフォルトでかなりのボリュームがある。麺を口に入れると、ちゅるりとした舌触り。濃厚なスープにプリプリの縮れ麺は、王道の組み合わせだ。よく絡んでうまい。何より、このスープは一口めが一番うまい。何度も言うが、ここの豚骨はお世辞にも洗練されすぎていない。それゆえ、箸を進めれば進めるほど、クドくなる。麺に絡めることで、ちょうどいいバランスが保たれるのだ。

酒の余韻も手伝ってか、スルスルと麺が喉を通っていく。残ったのは、スープの塩気と豚骨の余韻だけだった。

今回頂いたラーメン

ごちそうさまでした。

【DATA】
鯛塩ラーメン
850円
https://tabelog.com/tokyo/A1320/A132001/13024959/

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